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Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha) チャプター4:マイヤーズ社地下からの脱出(※現デモ最終地点)

dino999z氏制作のフリーゲーム「Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha)」の邦訳記事です。ゲームのダウンロードはこちらから。
※現在は英語版verAlpha 1.0.0を元にしています。
※意訳・超訳・誤訳あり。
(前→チャプター4:過去のRMU~マイヤーズ社地下

 

 

 

***************************


☆秘密の部屋

 暗緑色の壁と、薄暗い電灯……


 眼前の光景に驚きはない。


 前にサイボーグの眼球を取った時に見えたものとまったく同じ部屋だ。


 周囲には……


 血に飢えたサイボーグが壁に繋がれている。


 だがこの時、私の注意を引いたものは、目の前にいるサイボーグただひとりだった。


 彼は猛獣のごとく私に向かって突進しようとしているが、手足を拘束され身じろぎすらできない。


 彼の外見は……おや、眼球を取った時の記憶の中で見たのと同じサイボーグだ。


 いや、それだけではない。


 今見ているものすべて……あまりにも見覚えがある。


 サイボーグの眼球を取った時に見た光景はまだ記憶に新しい。


 今見ている光景とまったく同じじゃないか。


 分からない。


 私が見たのはあのサイボーグの過去の記憶ではなく、私自身の今の経験だったのか?



 !?


 私はマイヤーズ社に来てからの一部始終を思い返し、そして気がついた。私はずっと、あることを見逃していた。

ヴィンセント
 どうしました、ヴァノーラ? なにか見つかりましたか?

ヴァノーラ
 ……あなただったのね、ヴィンセント。

ヴィンセント
 ほう?


 ヴィンセントは少しも驚かない。むしろ嘲るような笑みを浮かべている。

ヴァノーラ
 マイヤーズ社の外壁にあった落書き……

ヴァノーラ
 社員用通路にあった招待状と4桁のパスコード……

ヴァノーラ
 地下にあった歴史書哲学書……

ヴァノーラ
 そして箱の中の大学時代の写真。

ヴァノーラ
 マイヤーズ社に来てから今まで、私はここで行われている実験が秘密組織となったマイヤーズ社によって行われていると思っていた。

ヴァノーラ
 でもそれじゃ変だわ。

ヴァノーラ
 どうしてマイヤーズ社が自分たちのことを『殺人鬼』と呼び、社員用のアクセスコードと同じ数字を使うの?

ヴァノーラ
 あなたの事故と同日に起きたパーティが、どうしてマイヤーズ社にとって悪夢の始まりになるの?

ヴァノーラ
 どうして地下の本棚があなたの好きな哲学書と歴史書で埋まっているの?

ヴァノーラ
 どうしてあなたとヴィクターの写真が秘密の部屋を開く手がかりになっているの?

ヴァノーラ
 考えれば説明はひとつしかない……

ヴァノーラ
 ここで実験を続けているのはマイヤーズ社の秘密組織ではなく、あなただからよ……

ヴァノーラ
 ヴィンセント・エッジワース。

ヴィンセント
 なるほど……面白い仮説です。

ヴィンセント
 確かに、貴方がそのように考えるのも無理はない。

ヴィンセント
 その嫌疑が正しいとすると、私はなぜここに来て貴方を手伝い、自らの正体を明かすようなことを?

ヴァノーラ
 簡単なことよ。それがあなたの計画だったから。

ヴァノーラ
 G4サイボーグ事件の裁判で、あなたはマイヤーズ社の弁護士として、すべての罪をウィンストン・ルーミスに着せた。

ヴァノーラ
 そしてサイボーグ実験がマイヤーズ社によって計画されたものであるという事実を隠蔽してみせた。

ヴァノーラ
 ところがあなたはそれでマイヤーズ社から評価を受けるどころか、周到に計画された自動車事故で殺されかけた。

ヴァノーラ
 死力を尽くし、すべてをマイヤーズ社に捧げたのに、会社はあなたを駒のごとく切り捨てた。

ヴァノーラ
 その恨みから、あなたはマイヤーズ社に復讐することを決意した。

ヴァノーラ
 マイヤーズ社を打ち倒して手綱を握るためには、彼らよりも進んだ技術を会得する必要があった。

ヴァノーラ
 そして、マイヤーズ社よりも恐ろしい存在になる必要があった。

ヴァノーラ
 だからあなたは刑務所からウィンストンを逃がし、マイヤーズ社が廃棄したサイボーグを作り直すという取引を持ちかけた。

ヴァノーラ
 そして、協働してマイヤーズ社に恐怖の一撃を喰らわせる新しい技術を作り上げた。

ヴァノーラ
 その技術とは、いま私が持っている、他者の過去を見る能力

ヴァノーラ
 それだけじゃない。あなたは、マイヤーズ社が似た研究をしているものの遅々として進んでいないことを知っていた。

ヴァノーラ
 そこで、マイヤーズ社の秘密組織のメンバーと取引をした。

ヴァノーラ
 そして能力に関する研究資料とサンプルをマイヤーズ社から盗み出すのを手伝わせた。

ヴァノーラ
 同時に、秘密兵器を製造中であることを示唆する脅迫ビデオをマイヤーズ社に送りつけ、彼らに多大な猜疑心を植えつけた。

ヴァノーラ
 欲しいものをすべて手に入れた後、あなたはメンバーを残忍な手口で殺害し、その死体は作り直したサイボーグのエサにした。

ヴァノーラ
 メンバーの名前はリチャード・エマノン博士。彼は自室でバラバラ死体となって発見された。

ヴァノーラ
 その後、私は近年発生している失踪事件とG4サイボーグ事件の真相を探るため、刑事としてあなたの館に派遣された。

ヴァノーラ
 奇妙だけど、その後のことは思い出せない。

ヴァノーラ
 私はあなたの館で目を覚まし、そしてすべての記憶を失っていた。

ヴァノーラ
 意外なことに、私は前には無かった他者の記憶を見る能力を会得していた。

ヴァノーラ
 でもマイヤーズ社で見つけた手がかりによれば、

ヴァノーラ
 私があなたの館に行った夜、私とあなたはこの旧マイヤーズ社を一緒に訪れていた。

ヴァノーラ
 その夜になにが起きたのかはまだ分からない。でもひとつだけ分かるのは、

ヴァノーラ
 この数年で起きたG4地区の失踪事件の犯人は、あなただということ。

ヴァノーラ
 あなたはここで、ウィンストンと一緒に秘密裏にサイボーグを作り直していた。彼らを生かしておくためにエサが必要だった。

ヴァノーラ
 では私は? 私はあなたが生み出した他者の記憶を見るという新しい能力の実験台にされていた。

ヴァノーラ
 あなたはなんらかの方法で私の記憶を消し、私が能力を使って過去に関する手がかりを得ることができるかを試した。

ヴァノーラ
 旧マイヤーズ社を実験場として、あらゆる種類の謎を仕込んだ。

ヴァノーラ
 そして私が目覚めた時、ポケットにマイヤーズ社の社員証があったと嘘を吐いた。

ヴァノーラ
 実験を始めるために私をここにおびき寄せた。

ヴァノーラ
 これでどう? 他になにか説明が必要なことは?

ヴィンセント
 素晴らしい、ヴァノーラ。実に感銘を受けました。

ヴァノーラ
 感銘を? つまり私の話を否定しないのね。

ヴィンセント
 ええ。その通り、私がすべての黒幕です。

ヴィンセント
 しかしこれだけはお伝えしなければなりません。貴方のほぼ完璧な推理には、致命的な欠陥がひとつ存在する。

ヴィンセント
 自分が本当にヴァノーラであるとどうして分かるのです、サイボーグのお嬢さん?

ヴァノーラ
 !?

ヴァノーラ
 最初に私を『ヴァノーラ』と呼んだのはあなたじゃない。

ヴィンセント
 ええ。ですがお忘れですか? 先ほどもお話した通り、人の人格はその人が記憶している物事の量によって決まる。

ヴィンセント
 私が貴方を『ヴァノーラ』と呼んだのは、貴方の様子が彼女と似ていたからです。

ヴィンセント
 言い換えれば、貴方がヴァノーラの記憶を取り戻したから、貴方のことをヴァノーラだと思ったのです。

ヴィンセント
 しかし同じ記憶が別のサイボーグに与えられれば、そのサイボーグも自分のことをヴァノーラだと思うことでしょう。

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 からかわないで。あなたの話は信じないわ。

ヴィンセント
 ヴァノーラ、貴方が刑事として私の館に来た日がいつか、思い出しましたか?

ヴァノーラ
 ええ。2086年12月1日よ。

ヴィンセント
 では、今日は何日かお分かりですか?

ヴァノーラ
 ……いいえ。

ヴィンセント
 今日は2087年3月5日です。

ヴァノーラ
 ……!

ヴィンセント
 そう。貴方はこの3か月の間に起きたことをなにひとつご存知ない。本物のヴァノーラはずっと前に失踪しているのです。

ヴァノーラ
 ……。

ヴィンセント
 申し訳ありません、ヴァノーラ。残念ながらお喋りはここまでです。

ヴィンセント
 実を言うと、私もこのような末路は見たくありませんでしたが。

ヴィンセント
 貴方には残りの人生を、貴方のお仲間とともにここで過ごしていただかなくてはなりません。

サイボーグ
 ウ……ア……

ヴァノーラ
 ……!

ヴァノーラ
 どうして? どうしてこんなことを?

ヴァノーラ
 私が本物のヴァノーラじゃないならどうしてこんなことをするの? 私があなたになにをしたの?

ヴィンセント
 貴方がヴァノーラだろうとそうでなかろうと、貴方の心はマイヤーズ社のもの。その身体は腐敗臭を放ち、魂は堕落を体現している。

ヴィンセント
 彼女はもう貴方の中にいるのです、我が友。

ヴァノーラ
 ま、待って!

ヴィンセント
 !?



 混乱のただ中で、私は無意識に右手を伸ばし、もっとも近くにあった、もっとも掴みやすかったものを手に取った……


 ヴィンセントのネクタイを。


 どうしてそんなことをしたのかは覚えていない。


 でも、彼のネクタイを掴んだ途端、再び視界がぼやけたのは覚えている。



 最後に見たものは、ヴィンセントの顔に浮かんだわずかな焦りの色だった。


 調査完了:秘密の部屋の場所を特定した。


***************************


☆過去のRMU
???
 ヴィンセント・エッジワースだね? 君宛ての郵便だよ。いい日を!

ヴィンセント
 ありがとうございます。


ヴィクター
 よおヴィンセント! ここにいたのか。図書館で見なかったのはなんでだろうと思ってたとこだ。

ヴィンセント
 ……。

ヴィクター
 ……どうした、ヴィンセント。ちょいと落ち込んでねえか。

ヴィクター
 さては……G2から来たあいつにまたイラつかされたか?

ヴィンセント
 ……そういうことじゃない。

ヴィクター
 じゃ、どうしたんだ? なんかあったのか?

ヴィンセント
 マイヤーズ社に採用された。今日、採用通知が来た。

ヴィクター
 おい、なんだって!?

ヴィクター
 最高のニュースじゃねえか、ヴィンセント! おめでとう、お祝いしなきゃな!

ヴィンセント
 ……あ、ああ。

ヴィクター
 ……。

ヴィクター
 ヴィンセント、マイヤーズ社で働くのが人生の夢だったんだろ? なんでそんな暗くなってるんだ。

ヴィンセント
 確かに、マイヤーズ社で働くのは私の夢だった。ただ……RMUでの生活ももう終わり、ということでもある。

ヴィンセント
 ここを去ることをこんなに悲しく感じるとは思わなかった。この4年間はあっという間だったな。

ヴィクター
 ……。

ヴィクター
 ああ。もうちょっとで全部終わっちまうな。

ヴィクター
 初めて会った時のことはまだはっきり覚えてるぜ。あれがまだ4年前だなんてなあ。

ヴィンセント
 ……。

ヴィクター
 ……。

ヴィクター
 ところで、今夜クラスで卒業パーティをやるそうだ。一緒に行くか、ヴィンセント?

ヴィンセント
 興味ない。

ヴィクター
 ……ハハハ。やっぱり。

ヴィクター
 なあヴィンセント。あいつらはみんなお前の友だちだ。最後に一度会っておいたっていいだろ?

ヴィンセント
 連中は友だちじゃない。

ヴィクター
 お前は友だちと思ってなくても向こうはそう思ってんだ。お前のことを友だちとして見てる。

ヴィンセント
 私は友だちになどなりたくない。お前がいれば十分だ。

ヴィクター
 ……。

ヴィンセント
 ……。

ヴィクター
 ……。

ヴィンセント
 ……。

ヴィクター
 なら、二人だけでやるのはどうだ。

ヴィクター
 俺とお前だけ。水入らずでさ。

ヴィクター
 お前、もうそろそろ大学を出るってのに一度も呑んだことないだろ?

ヴィクター
 G4の中心街に俺の好きなバーがある。連れてってやるよ、デートと洒落込もうぜ。どう思う?

ヴィンセント
 ……いつ?

ヴィクター
 今晩の5時はどうだ? 車で行こう。もちろん俺は今晩呑めねえってことになるけど。

ヴィンセント
 ……乗った。


ヴィクター
 支度は済んだか、ヴィンセント。

ヴィクター
 ん? ちょっと待て。お前、整髪料使ったか?

ヴィンセント
 えっ? いや……

ヴィクター
 それに新しいスーツに着替えただろ!

ヴィクター
 アッハハハハハハ! マジにデートだと思ったのか、ヴィンセント?

ヴィンセント
 良く言う。お前の服のコロンの香りに私が気づかないとでも思ったか。

ヴィクター
 アハハ……おっしゃるとおりで。

ヴィクター
よし、それじゃ行くか。


ヴィンセント
 『知ってます? 地球上の生物の50%から80%は海中に生息しているんですよ』

ヴィンセント
 『この惑星における生存可能な空間の99%は海の中にあって、人類が探索できているのはそのうちの10%にも満たないんです』

ヴィンセント
 『それだけじゃない。地球上の水の96%は海にあります。残りはなにか? 川や湖や氷河の形を取る真水です』

ヴィンセント
 『同時に、海は人類の活動によって大気中に放出されているCO2を毎年25%吸収してて……』

ヴィンセント
 『温室効果ガスが気候に与える影響を大幅に軽減しているんです』

ヴィンセント
 『海は実に素晴らしく謎に満ちています。そう思いません、ヴィンセント?』

ヴィクター
 アハハハ。すげえ、あいつそっくりだ!

ヴィクター
 あいつ、卒業後は博士課程に行くんだってさ。その後はG2に戻って親父の会社を継ぐそうだ。

ヴィンセント
 そうなのか。奴の将来のことなんて1ミリも興味は無いな。バーテンダーマティーニをもう一杯。

ヴィクター
 な? マティーニを気に入ると思ったぜ。

ヴィンセント
 お前はどうなんだ、ヴィクター。卒業した後はどうするんだ?

ヴィクター
 俺もお前と同じく会社に受かった。そこの投資部門で働く予定だ。

ヴィンセント
 良いことを聞いたよ、ヴィクター。すごいじゃないか。

ヴィクター
 そうか? そう思ってる風には見えねえけどな。

ヴィンセント
 そんなことはない。信じてくれ、本当にすごいと思っているんだ。ただ……

ヴィンセント
 こうやって隣り合わせで座っていられるのも、この数日が最後かもしれないと思って。

ヴィクター
 ……。

ヴィクター
 すっかり俺に情が移っちまったみたいだな。一人でマイヤーズ社に行くのが不安か?

ヴィンセント
 ……時々、私の心を読んでいるんじゃないかという気分になるよ。

ヴィクター
 ……。

ヴィンセント
 ん? これは?

ヴィクター
 俺からの卒業祝い。

ヴィクター
 マイヤーズ社で働くんだし、服装を変える気でいるんじゃないかと思ってさ。

ヴィクター
 黒のネクタイはプロっぽさが増す気がするだろ?

ヴィンセント
 ……ありがとう、ヴィクター。大事にする。

ヴィクター
 なあ友よ。これから話すことは……ちょっと安っぽく聞こえるかもしれねえが、全部俺の本心だ。

ヴィクター
 初めて会った時のこと覚えてるか? 大学の寮で。

ヴィンセント
 ……忘れるわけがないだろう。

ヴィクター
 実を言うと、初めて会った時は、親友になれるとはこれっぽっちも思ってなかった。

ヴィクター
 お前には『俺たちはきっと親友になれる』って言ったけどさ。

ヴィクター
 あの時はそんな気はあんまりなかったんだ。

ヴィクター
 けどこの4年でお前は俺を大いに変えた。お前はそれに気づいてもいないだろうな。

ヴィクター
 お前といると、俺の人生には意味があるって気持ちになるんだ。お前のおかげで俺自身の目標を取り戻せた。

ヴィクター
 俺もお前みたいなすげえ奴になりたい。いや、もっと大事なことは……

ヴィクター
 お前の隣に居たいんだ。これからも、お前のために。

ヴィクター
 俺には分かる。マイヤーズ社に入ったら、お前はデカいことを山ほど成し遂げるだろう。

ヴィクター
 俺はお前という男を知ってるからな。ヴィンセント・エッジワースに不可能は無いってことも。

ヴィクター
 とはいえ、マイヤーズ社での旅路が常に順風満帆とは行かないだろうことも否定はできない。

ヴィクター
 大なり小なり、あらゆる種類の試練と、そして回避不可能の失敗に見舞われるはずだ。

ヴィクター
 これだけは心に留めておいてくれ。

ヴィクター
 重圧に負けそうになって誰かの手を借りたい時、誰かと一緒に人生の浮き沈みについて考えたい時、

ヴィクター
 お前の親友が……マイヤーズ社の投資部門で、いつでもお前を待ってるからな。

ヴィンセント
 ……まっ、まさか!?

ヴィクター
 これ、マイヤーズ社からの採用通知。

ヴィクター
 悪いな、ヴィンセント・エッジワース。俺をお払い箱にするにはまだ早いぜ。


ヴィクター
 ……おい、ヴィンセント!?

ヴィクター
 泣いてんのか!?


ヴィンセント
 (人生には、運命で定められたことなどなにひとつない)

ヴィンセント
 (幼いころから私はそう信じ続けていた)

ヴィンセント
 (人の運命は他の誰でもない、自分だけが変えられるものだと)

ヴィンセント
 (だがあの時、私はようやく気がついた。私は間違っていたのだ、なにもかも)

ヴィンセント
 (我々がRMUで出会ったあの日)

ヴィンセント
 (彼が私の人生に関わることになったあの瞬間)

ヴィンセント
 (すべてが一変することが運命づけられていた)

ヴィンセント
 (RMUに入学したことも、彼と出会ったことも、彼と知り合ったことも運命だった)

ヴィクター
 そういやバーの近くにペットショップがあったな。子猫でも見に行かねえか?

ヴィンセント
 (だが、1人の人間が人生を一変させる力を持つのと同様に)

ヴィンセント
 (罪に塗れた会社は、すべてを奪い去る力を持つ)

???
 ヴィンセント、我が社は危機的な状況にある。

???
 すべて彼の仕業だったと奴らを信じ込ませろ、さもなければ我々はおしまいだ。

ヴィンセント
 (私はヴィンセント・エッジワース。マイヤーズ社の元弁護士)

ヴィンセント
 (人々にとって弁護士とは法と正義の象徴。だが、私の人生は罪に満ちている)

ヴィンセント
 (目的を達するためなら私は手段を選ばない。証拠の捏造も、贈賄も、何だってやってやる)

ヴィンセント
 (自分勝手だと思うだろう?)

ヴィンセント
 (だがすべては会社のため。他でもない、自分の夢だった会社のため)

ヴィンセント
 (私は一度たりとも負けたことはなかった。ただの一度も)


ヴィンセント
 (だが、会社はその見返りとして、私を自動車事故で殺害しようとした)


ヴィンセント
 う……あ……

ヴィンセント
 (痛い。全身の骨が1本残らず折れていた)

ヴィンセント
 (鮮血が視界を赤く染めていた)

ヴィンセント
 (それでも私は生きていた)

ヴィンセント
 (次に意識が戻ったときには、冷たい金属の上に寝かされていた。身体を動かすことはできない。だが周囲の声がかすかに聞こえる)

???
 臓器を摘出。内骨格の移植を開始。

ヴィンセント
 あぁぁ……うぁ……

ヴィンセント
 (抵抗したかった。叫び出したかった。だが、ただ見ていることしかできなかった)

ヴィンセント
 (手術の後、私はあの秘密の部屋に移された)

ヴィンセント
 (私の身体からは無数のチューブが伸びていた。目の前にはマイヤーズ社の幹部たちがいた)

ヴィンセント
 (いや、人影はもうひとつあった。見慣れた顔だが、しかし様子が違っていた)

ヴィンセント
 マ……マイヤーズ氏?

???
 彼にエサを。

ヴィンセント
 (目の前に生肉が放り投げられた。ヒトの肉だ)

ヴィンセント
 (吐き気がした。だが、食らいつかずにはおれなかった)

???
 彼をこの部屋に監禁し、行動を観察したまえ。

???
 承知しました、M様。

ヴィンセント
 待て、行くな……

ヴィンセント
 教えてくれ……なぜだ? なぜこんなことを?

ヴィンセント
 私はどんな命令もこなした……この会社にすべてを捧げたのに……

???
 ……。

???
 ああ、ヴィンセント。その通りだとも。

???
 君のこれまでの努力はすべて見てきた。

???
 だから分かるのだよ。君なら会社のために、このちょっとした痛みも喜んで引き受けてくれるだろうとね。そうだろう?

ヴィンセント
 嫌だ……違う……

???
 さようなら、ヴィンセント・エッジワース。君が生き残れることを祈っているよ。

ヴィンセント
 やめろ……やめてくれ!!!!!!!


ヴィンセント
 (どのくらいあの場所に閉じ込められていたのか、覚えていない)

ヴィンセント
 (あの部屋では1日が、1秒が、限りなく長く感じられた)

ヴィンセント
 (吐き気をもよおす生肉の塊。ズタズタになった皮膚。耐えがたい痛み……)

ヴィンセント
 (死んだほうがマシだと思えた。すべてを終わらせてしまいたかった)


ヴィンセント
 ……。

ヴィンセント
 (黒のネクタイ。血で赤く染まってしまって久しい)

ヴィンセント
 ヴィクター……あの男は今どうしているだろう。

ヴィンセント
 怪物と化した私を見たら彼はどう思うだろうか。

ヴィンセント
 ……。


ヴィンセント
 これも、私の運命だというのか?

ヴィンセント
 彼とともにマイヤーズ社に入社したのに、二度と会えなくなることが。

ヴィンセント
 結局、私は乗せられていただけだったのだ。

ヴィンセント
 私は最初からマイヤーズ社の手駒のひとつに過ぎなかった。彼らに受け入れられたのではなかった。


ヴィクター
 え? 人の運命は変えられるかって?

ヴィクター
 正直なとこ、俺もその答えは分からん。

ヴィクター
 俺が分かってるのはな、そいつがヴィンセント・エッジワースだったら、他人に自分の運命を決めさせるようなことはしないってことさ。


ヴィンセント
 ……違う。運命だろうとなんだろうと、私はこんな末路は望んでいない。

ヴィンセント
 全身の骨を1本残らず砕かれ、皮膚を切り刻まれようと、

ヴィンセント
 私は、このヴィンセント・エッジワースは、腐って悪臭を放つこの部屋で生涯を終えることなど認めない。

ヴィンセント
 私にはまだやるべきことがある。もう一度見たいものが山ほどある。

ヴィンセント
 もはや人ではなくなり、普通の人生に戻ることが叶わないとしても、

ヴィンセント
 命あるかぎり……私は地獄から這い戻ってみせる。


ヴィンセント
 いや……それだけでは済まない。

ヴィンセント
 あの幹部どもに復讐してやる……

ヴィンセント
 身体を引き裂かれる気分を思い知らせてやる……

ヴィンセント
 マイヤーズ社に……苦痛に満ちた報いを受けさせてやる。


***************************


☆マイヤーズ社
ヴィンセント
 ……。

ヴィンセント
 すべて……見たのですね?

ヴァノーラ
 ……あなただったのね。幹部陣を殺した犯人は。

ヴァノーラ
 あなたは……何なの?

ヴィンセント
 私? 私が何者か?

ヴィンセント
 分かりませんか?

ヴィンセント
 私はマイヤーズ社に造られたのです。貴方と同じように。

ヴィンセント
 目に焼きつけるといい。これが、すべてを捧げた弁護士にマイヤーズ社が与えた仕打ちです。

ヴィンセント
 マイヤーズ社はまだ消えてはいない。

ヴィンセント
 しかし、いずれ私が消し去ってやる。

ヴァノーラ
 !?



 私はヴィンセントのネクタイから手を放し、脱兎のごとく部屋を出た。


 部屋の外には、またしてもあの奇妙な影がいた。


 彼女は箱の脇に立ち、何かを私に示している。


 私は箱から写真を取り出してポケットに入れ、急いで隣の部屋に駆け込んだ。


***************************


☆ルーム1
インターホン
 ヴァノーラ! ヴァノーラッ!


 !?

ヴァノーラ
 ドラコ!? ドラコなの?

ドラコ
 ヴァノーラ、ヴィンセントが暴れてる! 今すぐここを出るんだ!

ヴァノーラ
 どうすればいいの!?

ドラコ
 まずブレーカーに繋がってる2つの制御パネルを操作して、その部屋の電源を復旧させるんだ。

ドラコ
 そうすれば壁の8つのモニターが点く。

ドラコ
 その後は、画面に映る記号をすべて2つずつ合わせれば、隣の部屋の入り口が開く。

ドラコ
 君が入ってきたドアは閉めたけど、あの人をしばらく足止めできるというだけのことだ。

ドラコ
 急いでくれ!


【→モニターの絵合わせパズルを解く】
ドラコ
 いいぞ、ヴァノーラ! これであとは……

ヴィンセント
 ヴァノーラ……

ヴィンセント
 逃げられると……思うのですか?

ヴィンセント
 フ……フフ……

ヴィンセント
 アハハハ……

ヴィンセント
 アハハハハ……

ヴィ?ン?セ?ント
 今日が……マイヤーズ社の審判の日だ。

 注意:ここから先、ヴィンセントから逃げるためには、一連の質問に回答し、ミニゲームをクリアしていく必要がある。
 間違えることができるのは2回だけである。
 3回以上間違えるか、制限時間を超過すると即死する。
 ここでセーブしておくことを強く推奨する。

【第1の質問】
ヴィ?ン?セ?ント
 ヴァノーラ……貴方は今この瞬間、こうして私と対面している……

ヴィ?ン?セ?ント
 貴方は……我々がここに来たのは運命だと思いますか? 貴方は運命を信じますか?

【→Your fate and actions are intertwined. (運命と行動は絡み合うもの)】
ヴァノーラ
 この世界には完全に偶然に生じるものも、完全に自分の行動から生じるものも存在しない。

ヴァノーラ
 こうしてあなたと対面したのも……私たちの運命と行動とが絡み合った結果。

ヴァノーラ
 ヴィンセント、あなたの過去を見たわ。

ヴァノーラ
 あなたは自分の夢を追いかけることに青春を捧げた。マイヤーズ社に入ることがあなたの夢だった。

ヴァノーラ
 あなたがマイヤーズ社に入ったのは運命じゃない。あなたが努力したからよ。

ヴァノーラ
 でも、あなたにはどうにもできないことも存在する。

ヴァノーラ
 マイヤーズ社にはふさわしくないと除け者にされて追放されたのは、あなたの運命だった。

ヴィ?ン?セ?ント
 な、なぜそれを……!?


 ヴィンセントの顔に動揺の色が現れ、やがて苦悶の表情に変わった。


 私は隣の部屋に駆け込んだ。


ヴィ?ン?セ?ント
 ヴァノーラ!!!!!!!!


***************************


☆ルーム2

 ここも安全とは言えないが、しばらくはこのドアがヴィンセントを足止めしてくれるはず。


 パズルを解いて、なるべく早く隣の部屋に逃げないと。


【→パソコン】
 プロジェクト名:I.C.I.J
 分類:機密

 マイヤーズ社の最先端技術は、世界中の人々から常に誤解を受けている。
 その誤解は、マイヤーズ社のサイボーグ再生計画に対する反発を招いている。
 脇道に逸れることなく確実にプロジェクトを進めるためには、最終的な成功を確かなものにするだけのしかるべき犠牲を払わなくてはならない。

 マイヤーズ社は、まず特別に選出した社員を訓練し、その能力を高めることに注力する。
 本プロジェクトの主な目的は、いかなる手段を使い、いかなるコストを払ってでも、マイヤーズ社発展のうえで脅威となりうるものを排除することである。
 
 ******

 メンバー:追跡者
 当メンバーは極めて優秀で決断力があり、滅多にミスを犯さない。
 暗殺スキルと反応速度は、マイヤーズ社の脅威の排除を担う部隊の中でも間違いなくトップクラスである。
 評価:10点中9点

 ******

 メンバー:潜入者
 当メンバーは群衆に紛れて気配を消すことを得意とする。これにより、さまざまな状況へ容易に忍び込むことが可能である。
 どの仕事も非常に嫌がることから仕事に対する倫理観が向上している可能性があるのが難点である。
 評価:10点中7点

 ******

 メンバー:清掃員
 当メンバーは非常に動きが速く、会社の敷地の内外を自由に動くことができる。
 ゴミに対して不可解なほど拘り、敷地や設備の清潔を保つことを自らの責務としている。
 評価:10点中10点

 ******

 メンバー:調査官
 当メンバーは観察と説得に関する奇妙な能力を持つ。典型的なのは、人が誤魔化そうとした些細な点に気づくことである。
 加えて嘘に長け、自分の本当の感情を容易に覆い隠すことができる。
 評価:10点中8点


【→ブレーカーに貼ってある黄色い紙】
 I.C.I.Jのメンバーへ:
 マイヤーズ社のセキュリティ向上のため、
 本日より、この部屋の電力供給システムの入力パネルのパスコードは定期的に変更される。
 また、4名のメンバーをランダムに選出し、査定を行う。
 電力供給システムのパスコードは、当該期間中の4名のメンバーの査定レベルを高い順に並べたものとなる
 この情報を全員に周知すること。 -M


【→下段中央・上段中央・中段左・中段中央の順番にパネルを押した後、ドア脇のパズルを解く(左から2番目のボタン以外を全てONにする)】
ヴィ?ン?セ?ント
 全身を砕かれる耐えがたい痛み……

ヴィ?ン?セ?ント
 血を抜かれる苦痛……

ヴィ?ン?セ?ント
 すべて覚えているのですよ、ヴァノーラ。私はすべてを覚えている。

ヴィ?ン?セ?ント
 私は……マイヤーズ社を絶対に許さない。

ヴィ?ン?セ?ント
 私は奴らを葬り去る……ひとり残らず。

【第2の質問】
ヴィ?ン?セ?ント
 私がまだ生きている限り、まだ息をしている限り……

ヴィ?ン?セ?ント
 私はG4地区を隅々まで探し……生き残っているマイヤーズ社の虫けらどもを追い詰める。

ヴィ?ン?セ?ント
 奴らの皮膚を微塵切りにし……身体を粉になるまですり潰す。

ヴィ?ン?セ?ント
 策略、裏切り……6年の時を経て……私は復讐を果たす。

ヴィ?ン?セ?ント
 ヴァノーラ、審判を受ける覚悟はできましたか?

【→You will still be a monster.(それでもあなたは化け物のまま)】
ヴァノーラ
 そう。マイヤーズ社の人間をみんな殺すつもりなのね。

ヴァノーラ
 正直、私にはどうでもいいことよ。それがあなたの計画でも、あなたを止めることに変わりはないもの。

ヴァノーラ
 けど気づいたほうがいいわ、ヴィンセント。あなたには変えられないことがひとつある……

ヴァノーラ
 マイヤーズ社が存在していようといまいと、あなたはこれまでもこれからも、社会から拒絶された、未来の無い化け物よ。

ヴァノーラ
 ああ、なにを考えてるか分かるわ。

ヴァノーラ
 『違う、私にはヴィクターがいる。私は独りじゃない』

ヴァノーラ
 ヴィンセント、ヴィクターはあなたとは違う。彼はただの人間。

ヴァノーラ
 遅かれ早かれあなたは彼を失う。そうすればあなたはこの世界で独りぼっち。

ヴィ?ン?セ?ント
 な、なんてことを!?


 ヴィンセントの顔に浮かぶ悲哀の色が濃くなった。眼窩からは絶えず血が流れ出している。


***************************


☆ルーム3

 この調子よ、ヴァノーラ! もう少しだわ!


 もう少しで逃げられる!


【→机上の日記】

 2081年7月23日 晴れ
 私の頼みをヴィクターが本当に受けてくれるとは考えてもみなかった。
 私がなにを頼もうと彼はいつでも真っ先に手を貸してくれたが、
 今回の頼みは前例の無いことだった……
 それを達成するには、ヴィクターは多大なる犠牲を払わなければならない。
 私は激しい罪悪感に苛まれるとともに、心配でもある。
 これが彼にどれほど深刻な影響を与えるか、私にも分からないからだ。
 だが選択肢は無い。私が信頼できる人間はヴィクターだけ。この役目は他でもない、彼に務めてもらわなければならない。


 2084年5月7日 雨
 例のキャリアを収容ユニット内で培養し、記憶を無事にメモリーコアに移植した。
 ヴィクターはひとつだけ要求した。すべての記憶は、「アレ」の前に起きたことにしたいと。
 キャリアはその記憶を失っているとはいえ、ヴィクターがそう望む理由は理解できる。私は同意した。


 2084年5月15日 曇り
 まさか、あり得ない。
 すべてうまく行ったが……彼の目は。
 信じられない。まったく同じではないか!


 それまでの文章とは違い、日記の最後の文はまるで震える手で急いで書いたかのようだった。


【→パネルの上段左・中段中央・中段右・下段左・下段中央を押した後、ドア脇のパズルを解く(左からパイプ・マティーニ・執事服)】
ヴィ?ン?セ?ント
 ヴァノーラ……

ヴァノーラ
 (ため息)本当にしつこいのね、ヴィンセント。

ヴァノーラ
 自分の姿を見てみなさい。自分が今どんな状況か。

ヴァノーラ
 そこまで私を殺したくてたまらないわけ?

ヴィ?ン?セ?ント
 ヴァノーラ……貴方は逃げるしか能がないのですか?

ヴァノーラ
 私が? 逃げる?

ヴァノーラ
 やれやれね。どうして分からないのかしら。

ヴァノーラ
 今まで逃げ続けていたのはあなたよ。

ヴィ?ン?セ?ント
 ……なんの話です?

【第3の質問】
ヴァノーラ
 自分の胸に聞いてみればいいわ。あなたは本当にこれが全部マイヤーズ社のせいだと思ってるの?

ヴァノーラ
 マイヤーズ社こそが自分に降りかかるあらゆる不幸の根源だと、あなたはいつも自分に言い聞かせている。

ヴァノーラ
 でも本当は、ある明白な事実に向き合いたくないだけ。

【→You can’t change what has already happened.(起きたことはもう変えられない)】
ヴァノーラ
 現実を見るのよ、ヴィンセント。あなたは復讐という名目の下に受け入れがたい事実から目を背けている。

ヴァノーラ
 起きてしまったことはもう変えられないという事実を認めたくないと、心の中で思ってる。

ヴァノーラ
 偽証、贈賄……あなたは弁護士として数えきれないほどの罪を犯した。でもそれは望んでやったことではない。

ヴァノーラ
 マイヤーズ社は努力して入った夢の会社。会社のためになんでもするのは当然のこと。

ヴァノーラ
 そう自分に言い聞かせてたんじゃない?

ヴァノーラ
 でも本当は、あなたは居場所が欲しかったのよ。マイヤーズ社に受け入れられたかっただけなの。

ヴァノーラ
 幼い頃からあなたは他者に拒絶されてきた。

ヴァノーラ
 それでも本当の自分を隠そうとはしなかった。マイヤーズ社に入るまではね。

ヴァノーラ
 あなたはマイヤーズ社に受け入れられたくて、作り笑いを浮かべ、他人の真似をするようになった。

ヴァノーラ
 でもすべてが上手くいっていると思い始めた矢先、「アレ」が起きた。

ヴァノーラ
 そして、あなたは自分がいかに愚かだったかに気づいた。

ヴァノーラ
 あなたは時間を戻したいと思っている。RMU時代に戻り、もう一度やり直したいと思っている。


 私は大学時代のヴィンセントとヴィクターが写った写真をポケットから取り出した。

ヴィ?ン?セ?ント
 そ……それは……


 ヴィンセントは存在しない右手を写真のほうに伸ばした。

ヴァノーラ
 ヴィクターと一緒の時だけは、仮面を取り、本当の自分を見せることができる。

ヴァノーラ
 あなたは彼といるといつもイライラしているように見えるけど、それこそが本当のあなたの姿。

ヴァノーラ
 当時はなにもかもが平凡ながら、人生で一番幸せな時間だった。あなたはその時のことを恋しく思っている。

ヴァノーラ
 でもヴィンセント、残念だけど……


 私は写真を破いた。

ヴァノーラ
 時間を戻すことなんてできない。起こってしまったことはもう変えられないのよ。

ヴィ?ン?セ?ント
 やめろ、やめてくれ!!!!!!!!

 生存



 ヴィンセントは私に襲い掛かろうとしたが、こちらに近づこうとした途端、彼の崩れかけの身体が地面に倒れた。


ヴァノーラ
 ねえ、ヴィンセント……


 私は倒れて動けないヴィンセントに歩み寄った。

ヴァノーラ
 どうせあなたの望みは叶いっこないんだし、

ヴァノーラ
 私のお願いを聞いてくれない?


 私は右足を上げ、ヴィンセントの顔めがけて振り下ろした。

ヴァノーラ
 無駄なあがきはやめて、この世界から消えて。


 血塗れの足を上げ、再び彼の顔を潰す。

ヴァノーラ
 ずいぶんとマイヤーズ社の邪魔をしてくれたわね。このちょっとしたお願いを聞いてくれたら本当に助かるわ。


 何度も、何度も、何度も。


 サイボーグの胴体を切り開いた時と同じ感情が、胸に湧き上がってきた。


 あの……高揚感が。



 気づけばヴィンセントの首から上は完全にまっ平になっていた。

ヴァノーラ
 ……ようやく終わった。

ヴァノーラ
 あとは任務を済ませるだけ。


 私は出口へ向かう。



 思った通り、部屋の外であの男とまた会うことができた。

ドラコ
 あ……ヴァノーラ!

ドラコ
 君が無事で本当に良かった。

ドラコ
 ヴィン……ご主人様の様子は?

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 彼は死んだわ。

ドラコ
 なっ……なんだって!? どうして!?


 耳にした言葉が信じられない様子だった。彼の身体が震え出す。


 「……私が殺したの」私は何食わぬ顔で付け加えた。

ドラコ
 ヴァ……ヴァノーラ……

ドラコ
 ……なぜだ? なぜそんなことを!?

ヴァノーラ
 そんなのどうでもいいでしょ?

ヴァノーラ
 ヴィンセントのことがそんなに大事?


 抑揚のない声で、彼にそう問いかける。

ドラコ
 聞くまでもないだろう。あの人は僕の主だ。それだけじゃない。

ドラコ
 あの人は僕の兄さんなんだ!!!

ヴァノーラ
 ……。



 数秒の沈黙の後、私はドラコに歩み寄った。

ドラコ
 ヴァ、ヴァノーラ! なにを……?


 私はドラコに寄りかかり、彼の身体に腕を回して固く抱きしめた。


 その胸に頭をうずめる。

ヴァノーラ
 ごめんなさい、ドラコ。そうするしかなかったの。私も彼を殺したくはなかった。

ヴァノーラ
 でも、許してくれるでしょう?


 私はすがるようにドラコを見上げる。

ヴァノーラ
 あなたにとって私のほうがヴィンセントより大事だもの。そうよね?

ドラコ
 で、でも……


 左手を上げ、指先で優しくドラコの頬に触れる。彼の顔が熱くなるのを感じる。

ヴァノーラ
 ドラコ……あなたと私、二人だけでいいの。ヴィンセントはいらない。

ヴァノーラ
 二人でここから逃げて……ずっと一緒に暮らしましょう。

ドラコ
 ヴァ、ヴァノーラ……


 逡巡の後、ドラコはゆっくりと腕を上げ、私の身体に回した。


ドラコ
 ぐっ、うああああああああああああああっ!!!


 私はポケットに隠し持っていたメスを掴み、ドラコの胸に深々と突き刺した。


 何度も、何度も、何度も。

ヴァノーラ
 これね。


 切り裂かれたドラコの胸から、球体の装置を引きずり出す。


ヴァノーラ
 驚いたわ。

ヴァノーラ
 ヴィンセントの『秘密兵器』というのは、自分の遺伝子若い頃のヴィクターの記憶から作ったサイボーグだったのね。

ヴァノーラ
 まあ考えてみれば、あなたとヴィクターは確かに似てる。

ヴァノーラ
 誰かのことで頭がいっぱいになると、冷静な判断ができなくなるところとか。

ヴァノーラ
 ごめんね、ドラコ。これまで助けてくれたことは感謝してる。

ヴァノーラ
 でも私の任務は……あなたを破壊することだったの。


 私はドラコのメモリーコアを投げ捨て、メスを手に彼にゆっくりと近づいた。

ドラコ
 これでいいんだ……

ヴァノーラ
 ……え?

ドラコ
 全部僕のせいなんだから……

ドラコ
 すまない、ヴァノーラ……

ドラコ
 君を守ってあげられなくて……

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 じゃあね、ドラコ。



 その後、私は地下室の反対側にあったエレベーターを使い、独りでマイヤーズ社のロビーに戻った。



 マイヤーズ社を出ると、外はすでに朝になっていた。


 青い服に身を包んだ男が、門のそばで私を待っていたかのように出迎えた。

???
 おお、調査官! 久しぶりだねえ。秘密組織・マイヤーズ社によくぞ戻った!


???
 おや? どうしたんだい、調査官?

???
 なにか不安な事でも? その涙はなんだい?


***************************


☆エンディング後
???(青)
 つまり、M氏はヴァノーラとヴィンセントの過去の記憶を利用し、二人を対立させようとしているのか。

???(赤)
 明白だろう。M氏はあの女がマイヤーズ社に戻ってくると踏んでいる。

???(赤)
 彼女の持つ特殊能力を利用し、自分自身の過去を誤解するよう仕向ける気だ。

???(赤)
 もし君がすべての記憶を失っていて、垣間見える自分の過去がすべて凶悪犯罪に関わるものだったとしたらどうだ。

???(赤)
 君だって、自分は邪悪な人間なのだと思うに違いない。

???(青)
 なるほど……なら、我々はM氏の計画を妨害し、彼女がマイヤーズ社の調査に行くのを止めなければならない。

???(青)
 M氏の罠にかかる前に、本当の自分が何者か思い出してもらう必要がある。

???(赤)
 アッハッハ、潜入者よ、なにもかもそんなに簡単に行くと思ったかい?

???(赤)
 君は知らないんだ、彼女の能力はただ過去を見ることだけではないのをね……

???(赤)
 彼女は、未来に起こる可能性をも見ることができる。

???(青)
 なんだって?

 

ドラコ
 ヴァレリア様?

ドラコ
 ヴァレリア様。お言葉ですが、ここでお休みになるのは賢明な判断ではありませんよ。