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Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha) チャプター3:法務部

dino999z氏制作のフリーゲーム「Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha)」の邦訳記事です。ゲームのダウンロードはこちらから。
※現在は英語版verAlpha 1.0.0を元にしています。
※意訳・超訳・誤訳あり。
(前→チャプター3:マイヤーズ社ラボ
(次→チャプター4:過去のRMU~マイヤーズ社地下

 

 


***************************


☆法務部

 ……。


 着いた。法務部だ。


 ヴィンセントがかつてここで働いていたというのが信じがたい。


 !?


 待てよ。向こうにあるあれは……エレベーター?


 ザルモナが言っていた。


 マイヤーズ社のロビーに戻る唯一の道は、エレベーターに乗って地下へ行き、そこから反対側へ行くことだと。


 あれがザルモナの言っていたエレベーターなのだろう。


 だが……


 ここまで来たのだ。まずはこの場所を調べてみるべきではないだろうか?


 ……。


 いや……


 それになんの意味がある。


 ……。


 ロビーでドラコに対面したときに持っていた自信を、いまや失ってしまっていた。


 私はこれ以上真実を知りたいと思っているのだろうか。

ヴィクター
 『いいか、記憶を失くすってのは幸運なことだとも言えるんだ』

ヴィクター
 『自分の記憶に囚われている人間は山ほどいる。一生懸命その記憶を手放そうとしている一方で、同時にその記憶にしがみついちまう』

ヴィクター
 『そんななかであんたは、やり直しのチャンスをもらったんだ』

ヴィクター
 『素晴らしいことじゃないか? 正直、あんたがちょっとばかり妬ましいぜ』

ヴィンセント
 『どうやって、ですか。申し訳ありませんが、私にも分からないのです』

ヴィンセント
 『私の執事が昨晩、ドアをノックする奇妙な音を聞きつけまして』

ヴィンセント
 『彼がドアを開けると、貴方が階段の上でうつ伏せに倒れていました。気を失った状態でね』

ドラコ
 『一見ご立派な貴女の勇気は、魅力的な外装に包まれた無知に過ぎません』

ドラコ
 『貴女はご自身がなにに直面しようとしているのか微塵もご存知ない』

ドラコ
 『貴女の行く手を阻むあらゆる危険に立ち向かうことができると、本当に信じておいでですか?』

ドラコ
 『これから明らかになる真実を貴女は受け入れることができると、本当に信じているのですか?』


 ……。


 ヴィンセント、ヴィクター、そしてドラコ……


 私の周囲にはいったいいくつの嘘がある?


 ……なぜそんなことに?


 なぜみんな、私に嘘を吐く?


 あの館で目覚めて以来、私は幾度となく欺かれている。


 なぜ、なぜみんな私に嘘を?


 ……。


 なにをしている。今はそんなことを考えている場合ではない。


 ここまで来たのだから、まずは少し辺りを調べてみたほうがいいだろう。



 見つけた書類をいくつかざっと読んでみた。


 ……。


 うぅ……この法務部からの書類……


 さっぱり意味が分からない……


 !?


 ちょっと待て。このデスクのネームプレート……


 『法務部部長 ヴィンセント・エッジワース』


 で、では、これは以前……


 ヴィンセントが使っていたデスク!?


 デスクの上にはメモとグローブがある。


 メモは新品で、他の書類と比べると浮いて見える。


 誰かがつい最近、ここにこのメモを置いていったのかもしれない。


 ザルモナが置いたのだろうか?


 私はデスクからメモを取り上げた。


 親愛なるヴァレリア嬢、
 調子はどうかな?
 ハハハ。冗談だ。もちろん調子はよくないだろう。記憶を失っているのだからね。
 で、君は自分の記憶を取り戻したいと思っているかな?
 思っているね。
 そういうことなら、君にささやかな贈り物がある。


 君の求めるものを取り戻すのに、これが大いに役に立つことだろう。
 -匿名希望の旧友より
 

 私への贈り物?


 そばに置いてあるこのグローブのことか。


 ……。


 なぜか、不安が波のごとく私を襲った。

 目的:グローブを装着せよ


【→グローブ】

 グローブをはめる? →【YES】


 グローブは……私の腕にぴったりだった。


 !?


***************************


☆過去の記憶
???
 自分が何者か覚えているかね?

???
 自分の目的を覚えているかね?

???
 我々はみんな君を大層心配していたよ。

???
 早く帰っておいで。


???
 やあ! どうも! マイヤーズ社へようこそ!

???
 生命を得た感覚はいかがかな? 実に良い気分だろう?

???
 今はまだ少し混乱しているだろうが、大丈夫! すぐに慣れるさ。

???
 ん? 自分の任務はなにかって?

???
 こらこら、待ちたまえ。その話はこれからするから。

???
 どこから始めたものかな?……そうだ!

???
 実はね、私の昔の友人が私に対していささかお冠なんだよ。

???
 私を殺してこの会社をぶっ壊したいと思っているくらいに。

???
 それで、彼はある兵器を作った。非常に危険な兵器を。

???
 その兵器がなにかということは分からない。

???
 しかし風の便りによれば、人の記憶に関係するものなのだそうだ。おお! 実に恐ろしいだろう?

???
 で、君にやってもらいたいことというのは……


???
 おや、失礼! 配達の件だといいが!

???
 もしもし?

???
 おや! もう? 素晴らしい!

???
 しかし残念ながらいま家にいないのだ、友よ。

???
 ああ、小包はドアの前に置いておいてくれたまえ。そうだ、制服一式だ!

???
 分かった、それでいい! ありがとう!

???
 すまなかったね。どこまで話したかな?

???
 そうだ! 君にその兵器を探して欲しいのだ。

???
 そして、破壊してくれたまえ。

???
 ついでに、あの男がどんな実験を企んでいるのかについても調べてみて欲しい。

???
 君のコードネームは……


***************************


☆法務部

 !?


 いきなり法務部で大きな揺れが起き、私は現実に引き戻された。


 なにが起きたのだろう?


 !?


 突如、法務部とラボを隔てる壁から、全力で投げ飛ばされてきたかのごとく男が飛び出してきた。


 男は法務部の向かい側の壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちた。


 あれは……

ヴァレリア
 ド……ドラコ!!!???


 だが、強く叩きつけられてドラコは気を失っている。


 人間のものとは思えない咆哮がラボから轟いた。化け物が近づいてくる足音が聞こえた。

ヴァレリア
 ドラコ!! ドラコ!!

ドラコ
 ……。


 ドラコを強く揺するが、反応はない。

ヴァレリア
 ドラコ、起きて!!!

ドラコ
 ……。


 まずい、どうしたらいい!?


 !?


 地下だ! 急げ!


 私はエレベーターに駆け寄り、開閉ボタンを叩いた。


 お願い、早くして!!


 !


 急いでドラコをエレベーターに引きずり込み、開閉ボタンを押してドアを閉めた。



 はっ……はっ……


 まだ心臓が跳ねている。


 ……。


 化け物は追ってきてはいないようだ。もう大丈夫だろう。


 あれは……いったいなんだったのか……?

ドラコ
 ヴァレリア……


 !?

ヴァレリア
 ドラコ!?

ドラコ
 ヴァレリア、すまない……あの人を止められなかった。


 ドラコがゆっくりと立ち上がった。声が弱弱しい。

ヴァレリア
 ドラコ、大丈夫!?

ドラコ
 僕のことは心配いらない……ただのかすり傷だ。

ヴァレリア
 ……。

ヴァレリア
 こんな時にヒーローみたいな真似しないで!!!


 いきなり声を荒げた私を見てドラコが凍りついた。


 一瞬、私たちはお互い顔を見合わせて黙り込んだ。

ヴァレリア
 本気で言ってるの? そんな風に振る舞うのはやめてよ!

ヴァレリア
 ロビーで会ったときから訳の分からないおかしなことばかり言って!

ヴァレリア
 自分が大怪我してることも軽く見てる!

ヴァレリア
 本当にウンザリよ!

ヴァレリア
 あなたがどれだけ冷静だろうとどうでもいい。

ヴァレリア
 今はあなたがいくつ嘘を吐いてたかってこともどうでもいい。

ヴァレリア
 はっきりしてるのは、私がいま心配してるのがあなただってことよ!

ドラコ
 ……。

ドラコ
 君を見てると……あのときのことを思い出す。


 ドラコの表情が崩れ、深い悲哀の色が表れた。彼がそのような悲しい顔を見せるとは思いもよらなかった。

ヴァレリア
 ……あのとき?

ドラコ
 ……ごめん、ヴァレリア。

ドラコ
 僕がもっと早く……真実を話していれば……

ドラコ
 こんなことにはならなかったかもしれない。

ヴァレリア
 ……ドラコ……。

ドラコ
 昔みたいに戻れるだろうかと考えることがある。

ドラコ
 でも君にとっては、僕たちの過去はもう失われたものだ。

ヴァレリア
 戻れるよ!!! きっと戻る!!

ヴァレリア
 私たちはそのためにここにいるんでしょ? 私たちの過去を、私たちが一緒にいた過去を見つけるために!

ヴァレリア
 もしあなたのことを完全に忘れたとしても、私はまたあなたと友だちになりたい!

ヴァレリア
 だからここから出たら、私たちの過去のこと全部教えてよ!

ドラコ
 仰せのままに、ヴァレリア様。

ドラコ
 ……けど、今はもっと差し迫った問題がある。

ドラコ
 あの人は今どこに?

ヴァレリア
 ……ロビーでなにがあったの? アレはいったいなに?

ドラコ
 あの人は……「アレ」なんかじゃない。

ドラコ
 君もすでに知っている人だ。

ドラコ
 実は……


ドラコ
 ヴァノーラッ!!!!!!


***************************


???
 追跡者君。教えてくれ、君には愛する人がいるかね?

???
 愛する人? M様、なぜそのようなご質問を?

???
 こう考えてみよう。ある日、君の愛する人に悲劇が降りかかった。

???
 愛する人は身体を失ってしまったものの、記憶は残っている。

???
 そんな状態になっても、君はまだその人を愛しているかね?

???
 ……もちろん愛しています。身体がどうなろうと、その人はその人のままですから。

???
 実に心温まる答えだ!

???
 では、シナリオを変えてみよう。

???
 こうしよう……君の愛する人が、身体はそのままに、記憶をすべて失ってしまったとする。

???
 君はそんな相手をまだ愛しているかね?

???
 もちろんです。記憶をすべて失くしていたとしても、私は変わらずその人を愛するでしょう。

???
 君という存在をきれいさっぱり忘れていても?

???
 君と過ごした思い出を……すべて失っていても?

???
 辛いとは思うでしょうが、それでも私はその人を愛します。

???
 なんとも愉快な答えだ。人間はいつも私を楽しませてくれる。

???
 では……

???
 愛する人が身体を失うことも、記憶を失うことも気にしないというのなら、いったい君はその人のなにを愛しているのかね?

???
 ……

???
 君が愛しているものは自己実現的な幻影にすぎない。君の過去から生まれた、もう存在しない何者かだ。

???
 残酷な真実だが……

???
 記憶を失った瞬間……人はもはやその人でなくなる。そして元に戻ることは絶対にないのだ。


 調査終了:グローブを回収した。


***************************


警官
 あなたが新しい刑事さん? よろしくお願いします。

ヴァノーラ
 私のことはヴァノーラと。

ヴァノーラ
 犯行現場はどこ? 被害者はマイヤーズ社の元社員だったそうね。

警官
 ええ、309号室です。こちらへどうぞ。

警官
 皆さん立ち止まらないでください、ここには見るものなんかないですよ!

警官
 警察の捜査を邪魔したらダメですからね!

警官
 さ、ここです。


ヴァノーラ
 ……。

警官
 後はお任せします、ヴァノーラ刑事。

 目的:犯行現場を調べろ


【→ドア】

 部屋へ続くドアだ。

警官
 アパートの住人の話によれば、犯人は住人たちをかわしてここから逃げ出したそうです。

警官
 容疑者の名前はザルモナ、この階の住人です。

警官
 お伝えしておくと、この女性はミュータントです。

ヴァノーラ
 ミュータント? G3地区から来たの?

警官
 今のところは分かりません。

警官
 毎年大勢の人間がG3地区へ行って改造手術を受けますからね。結論はまだなんとも。

警官
 彼女の部屋を捜索したんですが、奇妙なことに身分証明になるものが一切見つかりませんでした。

警官
 現在、犯人は逃走中です。

ヴァノーラ
 部屋の外の廊下に飛び散ってる血痕は?

警官
 我々が到着する前に、エマノン博士の悲鳴を聞いて野次馬的な住人が大勢集まりまして。

警官
 彼らがアパート中を踏み荒らしたんです。それで今、部屋の外のあちこちに血痕があるという次第で。

警官
 廊下に有力な手がかりがあったとしても、もう踏み潰されて分からなくなってるでしょうね。

 証拠収集:容疑者


【→壁の絵画】

 壁に絵が飾られている。


 しかし近くに寄れば寄るほど、明らかにただのプリントであることが分かる。


【→キャビネット

 血のついたキャビネットだ。特に変わった点はない。


【→床】
ヴァノーラ
 もう死体を運び出したの? G4捜査局はなかなか優秀ね。

警官
 ええ。被害者はバラバラにされてましたから、死体の正確な位置を床に描くってことができなくて。

警官
 ただ、捜査局から検死結果が出てます。

警官
 死因は短時間のうちに一気に身体を切断されたことによるものだったそうです。

ヴァノーラ
 つまり、被害者はまだ生きている間に犯人にバラバラにされたと?

警官
 はい。惨たらしい死に方ですね。

警官
 検死結果によると被害者の頭部にはなにかで殴られた痕があったものの、致命傷ではなかったそうです。

警官
 あと、死体には死ぬ前に抵抗した痕跡もみられました。ですから痛みで失神していたということはなさそうです。

警官
 それに、他にもおかしな点がありまして。

警官
 バラバラにされた死体の一部が無くなっているんです。

ヴァノーラ
 無くなっている?

警官
 ええ。部屋に残っていたパーツでは被害者の全身が揃いませんでした。

警官
 アパート中を捜索しましたが、無くなっているパーツは見つかりませんでした。

警官
 犯人は人間ではないという可能性も考えたんですがね。

警官
 検死結果によると、このバラバラは野生動物の仕業ではないことははっきりしてるそうで。

ヴァノーラ
 ……。

 証拠収集:無くなった死体の一部


【→椅子】

 血のついた椅子だ。特に変わった点はない。


【→カーテン】

 カーテンを開けた。


 窓があるだけだった。


 窓の鍵にはこじ開けられた形跡はないため、犯人がここから部屋に侵入したとは考えにくい。

ヴァノーラ
 このカーテンは前から閉まっていたの?

警官
 もちろん。我々はなにも動かしていませんよ。

 証拠収集:閉じられたカーテン


【→トロフィー】

 トロフィーだ。血がついている。


 なにかの武器に使われたようだ。

ヴァノーラ
 このトロフィーから容疑者の指紋は見つかった?

警官
 いえ、エマノン博士の指紋だけでした。

警官
 ですが、お伝えしておくと……被害者の頭部の傷は、このトロフィーの尖った部分の形状と一致していました。

 証拠収集:血のついたトロフィー


【→警官と話す】
警官
 (ため息)なにかご用ですか、ヴァノーラ刑事?

【→ASK ABOUT KNOWN FACTS OF THE CASE(事件について知っていることを訊く)】
警官
 アパートの住人の話によると、犯行時刻の頃に短い停電があったそうです。

警官
 ただ、調べてみましたが、その停電は犯人の仕業ではなさそうです。ただの偶然でしょう。

ヴァノーラ
 ということは、被害者は停電と同じ時刻に殺害されたのね。

警官
 ええ。

 証拠収集:アパートの短い停電

【→ASK FOR INFORMATION ABOUT THE VICTIM(被害者の情報について訊く)】
警官
 被害者の名前はリチャード・エマノン博士、マイヤーズ社の元研究員です。

警官
 我々の調べでは、被害者は博士号持ちだというのに社内での役職は大したものではありませんでした。

警官
 被害者の今の職についてはよく分かっていませんが、部屋の様子を見るに、給料は特に上がってはいなさそうだというのは容易に推測できます。

警官
 同じ階の住人が、昨日の夜、この部屋の外の廊下で被害者を目撃したと話しています。

警官
 話によると、そのときエマノン博士は電話をしていて、「取引」の話をしていたそうです。

ヴァノーラ
 ……取引?

 証拠収集:エマノン博士の取引


【→調査終了】

 なにが起きたか推理するための十分な情報が揃った。


 この殺人があらかじめ計画されていたものであることは明らかだ。犯人は初めからエマノン博士を殺害する予定だった。


 窓に押し入った形跡が無いため、犯人はドアから直接部屋に入ってきた可能性が高い。


 つまり、エマノン博士自身が犯人を部屋に招き入れたということになる。


 ということは、犯人はエマノン博士が「取引」をしていた相手だった可能性が高い。


 だが、途中で小さな事故が起きた。


 犯人はトロフィーでエマノン博士の頭を殴打し、殺害する予定だった。


 だが部屋が突然停電したことで狙いが外れ、エマノン博士を一撃で仕留めることができなかった。


 ……無理もない。いきなり停電するなんて誰も予想できまい。


 もっとも、犯人が近年のG4地区失踪事件の黒幕と同一人物なら、犯人のミスの原因はそれだけではないはずだ。


 失踪した他の被害者たちは、空に吸い込まれたかのように痕跡ひとつ残さず消えていた。


 だが今回、犯人は部屋全体を荒らし、他の住人たちの注意を引いてしまっている。


 もし本当に同じ犯人だとすれば、こんな大きなミスをした原因は他にもあるに違いない。


 実際のところ、犯人は恐らく……

【→HAVE AN EXTREME FEAR OF THE DARK(暗闇に対して強い恐怖感を持っていた)】

 犯人には、暗闇への激しい恐怖症があった可能性がある。


 当時、部屋のカーテンは閉まっていた。突然の暗闇に人間の目が順応するまでしばらくかかる。


 つまり停電が起きた瞬間、エマノン博士の部屋には恐らく漆黒の闇が広がった。


 いつもは沈着冷静な冷酷なる暗殺者は、この部屋の中で完全に自制心を失った。


 過去のなんらかのトラウマにより、犯人が突然の暗闇に対して強い恐怖感を持っていたという可能性は極めて高い。


 ……。


 突然の暗闇……


 なるほど。恐らく合点がいった。


 ……。


 加えて、エマノン博士の殺害方法も大きな謎だ。


 犯人は一撃で博士を仕留め損なうと、博士を生きながらバラバラにした。


 その切断の仕方は……


 マイヤーズ社の幹部陣の殺害方法を思わせる。


 私の知る限り、マイヤーズ社の幹部陣も似たような残虐な手口で殺害されていた。


 そのことはG4地区での失踪事件とも合わせて、大勢の市民たちを神経質にしている。


 ほとんどの人は、今回の犯人が幹部陣を殺害した犯人と同一人物であると考えるだろう。


 だが、犯人がエマノン博士をバラバラにした本当の理由は……

【→TO COLLECT DR. EMANON’S BODY PARTS(エマノン博士の身体のパーツを得るため)】

 エマノン博士の身体の一部が無くなっていた。幹部陣に同じようなことがあったという記憶はない。


 パニックに陥った犯人がエマノン博士をバラバラにした本当の理由は、彼の身体のパーツを得るためだ。


 G4サイボーグ事件において、マイヤーズ社はG4地区の一般市民をサイボーグのエサにしていた。


 エマノン博士の死体には猛獣に襲われた形跡は無かったことから、


 犯人は後でサイボーグのエサにするためにエマノン博士の身体のパーツを手に入れようとしたのだろう。


 しかし、犯人がマイヤーズ社のために動いているのなら……


 エマノン博士を使ってサイボーグを造りたいと考えるものではないのか?


 なぜそうではなく、サイボーグのエサにすることを選んだのだろう?


 ……。


警官
 ヴァノーラ刑事?


 !?

ヴァノーラ
 なに?

警官
 犯人についての結論は出ました?

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 ザルモナの逮捕令状を。彼女こそ間違いなく私たちが追い続けていた犯人よ。

警官
 ……承知しました、ヴァノーラ刑事。


警官
 逮捕令状を出しました。

警官
 ヴァノーラ刑事、少し外までお付き合いいただけますか? お話ししておきたい大事な用件がありまして。

ヴァノーラ
 ……?



 私は彼の後についてアパートを出た。


 もうすっかり遅い時間になっており、空気はかなり冷え込んでいる。


 しかしそんな寒さなど意に介さないかのように、彼は私の前を黙々と歩き続けた。

警官
 ……。


 しばらくして、彼はようやく誰もいない路地で立ち止まった。


 「話したいことって?」私が会話の口火を切った。

警官
 では聞かせてもらおう。本当の犯人は誰なんだ?

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 今なんて?

警官
 ……調査官と呼ばれている人間だというのに、君は僕の正体に気づいてすらいない。


 目の前の男はおもむろに警帽を取り、そして思いもよらない光景が展開した。


 男は突如として自分の頬の端を掴み、顔の皮を引きはがした。


 その下から現れたのは、青い肌と白い髪。

ヴァノーラ
 ……お前か。


 正体を現した彼に対して、私はただただ警戒を強めた。

警官?
 調査官、君はいまだに僕のことを危険人物だと思っているようだね。

警官?
 信じようと信じまいと勝手だが、僕はあのG3地区の間抜けな組織のために三重スパイを演じている暇はない。

ヴァノーラ
 ここでなにをしている?

警官?
 ひとつしかないだろう? 我々のボスから、君が確実に任務を達成できるようにせよという明快な指示が下ったんだ。

警官
 万事うまくいっているようだがね。

警官?
 しかし、本当の犯人が誰か、君ははっきり分かっているんだろう?

警官?
 あそこでいったいなにがあった? あいつはこの手のことは得意だったはずだ。どうやったらここまで手酷く失敗する?

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 自分で聞いてみたら?

警官?
 ……。

警官?
 相変わらず強情だな。

警官?
 なら好きにすればいい。あの男の過去なんて僕の知ったことじゃない。

警官?
 しかし、僕たちは本当に同じ階のあの女性に罪を着せないといけないのか?

ヴァノーラ
 いかなる犠牲も会社の未来のため。どの犠牲も不可欠なものよ。

警官?
 ボスは本気で君の気を狂わせようとしているな。

警官?
 二言目には会社だ、会社だと……あの人の話はそればかり。

警官?
 僕たちはみんなあの人の手中にある単なる駒だ。

ヴァノーラ
 なんですって?

警官?
 気を悪くしたなら失礼。だがこれは僕にとってはただの仕事にすぎない。

警官?
 僕たちがしていることの倫理性を論じる気もなければ、あの人の『大いなるヴィジョン』にも興味はない。

警官?
 君も朝から晩まで会社のことに囚われてないで、一度くらいその脳を使って自分が本当に求めているものについて考えてみたらどうだ。

ヴァノーラ
 本当に求めているもの?

警官?
 生涯の伴侶を見つけるとか、家庭を持つとか、そういう類のことだ。

警官?
 僕のようにはなるなよ。自分の人生でなにをすべきか、その手がかりすら見つけられていない老いぼれには。

ヴァノーラ
 ……。

警官?
 (ため息)骨の折れる一日だった。またな。


 男は踵を返して立ち去ろうとしたが、ふと動きを止めた。


 彼は再び私のほうに振り返った。

警官?
 ……。

ヴァノーラ
 ?

警官?
 ヴァノーラか。その名前は自分で考えたのか?

ヴァノーラ
 ……。

ヴァノーラ
 ええ。

警官?
 ……そうか。


 男の陰鬱な顔が、ふいに珍しく明るくなった。

警官?
 君にそんなに良いネーミングセンスがあったとは。

警官?
 実に素敵な名前だ。自分のものにしたらどうだ?


 そう言って、男は再び警帽をかぶった。

警官?
 また後でな、ヴァノーラ。あの男への報告は時間通りにやるんだぞ。彼はその手のことに五月蠅いタイプだから。


 そう言い残し、男は通りの向こうに消え、またしても人混みの中に溶けていった。


 ……。


 生涯の伴侶を見つけ、家庭を持つ……


 そんなことが、私のような人間にもまだできるのだろうか?


 ……。


 なにを考えている。


 ……。


 とにかく、ここでの任務は果たした。


 G4捜査局が真犯人を見つけない限り、すべては私の手中にある。


 そろそろ次の目的地へ向かい、任務を果たそう。


 G4地区郊外……


 マイヤーズ社の元弁護士にして裏切り者の……


 ヴィンセント・エッジワースの館へ。


***************************


☆法務部
ヴァレリア
 ヴィンセント・エッジワース! その名前、今思い出したわ!

ヴァレリア
 あいつは……マイヤーズ社よりずっと恐ろしい男。

ヴァレリア
 もう身体は動く! ここから出ないと!

ヴィンセント
 私の名をお呼びですか、ヴァレリア。


 !?

ヴィンセント
 いや、こうお呼びすべきでしょうか……

ヴィンセント
 ヴァノーラ。