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Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha) チャプター1:プロローグ~ヴィンセント邸

dino999z氏制作のフリーゲーム「Vincent: The Secret of Myers (英語版Alpha)」の邦訳記事です。ゲームのダウンロードはこちらから。
※現在は英語版verAlpha 1.0.0を元にしています。
※意訳・超訳・誤訳あり。
(次→チャプター1:マイヤーズ社

 

 


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☆追跡者からのメール
 件名:新規の懸念事項
 M様、
 大変申し上げにくいのですが、新たな問題が発生いたしました。
 思っていたとおり、あの女が生きていました。
 我々が探していた「あれ」も、その女のもとにあります。
 どのように事を進めるか、ご希望をお知らせいただけましたら幸いに存じます。
 追跡者

 今夜10時。
 いつもの場所で会おう。


☆プロローグ
 初期化完了。
 コマンドを入力してください。
 →[執行開始]

 2086年1月20日
 一説によれば、
 人格は経験によって形成されるという。
 出生直後の我々は、粘土の塊に等しい。
 生きていくなかで、我々は刻々と変化していく。
 日々の生活の中でのトラウマになるような出来事、あるいはありふれた出来事によって、我々の在り方が変わっていく。
 食べたもの、買ったコーヒー、仕事を始めた時間……そんな些細な物事によっても。
 そういった目立たない小さな物事の数々が、気づかないうちに、我々の運命を変えていく。
 当然、過去の記憶を失うと、その人の根幹を成すものも消える。
 しかし私の脳裏には、常にひとつの疑問が浮かんでいる。
 人が自分のものではない記憶を得た場合……いったいなにが起きるのか?
 …………。
 
 その人がどのような存在になるのか、それを是非とも見てみたい。


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☆寝室
主人公
 ……。

主人公
 頭が……痛い……

主人公
 どのくらい……寝てたんだろう。


 頭の痛みをなんとかこらえ、身体を起こす。


 !?

主人公
 こっ、ここどこ!?


 目の前には豪奢な寝室があった。部屋を彩る趣味の良い内装には贅沢な装飾があしらわれ、すました顔でこちらを見下ろしている。

主人公
 ……なにがあったの?


 私はここに来た経緯を思い出そうとした。

主人公
 電話、電話はどこ?


 私は必死に自分のポケットを探る。

主人公
 ……。


 しかし、見当たらない。


 まずい。どうする?


 昨日の夜、いったいなにがあったのだろうか?
 私はどうやってここまで来たのだろうか?


 ……。


 まずは部屋の中を見て回ろう。
 思い出す手がかりになるものがあるかもしれない。

 目的:今いる場所を特定せよ
 ヒント:オブジェクトをクリックすると調べる。
 画面右上のボタンを押せば調査を終えられる。


【→窓】

 窓の外は奇妙なほどに静まり返っている。
 木々の葉が風に合わせてかさかさと音を立てているのみだ。


 遠くを見ても、視界いっぱいに木々に覆われた山々が茫洋と連なっているだけだった。

 証拠発見:景色


【→ベッド】

 ただのベッド。だがとても快適だ。


【→絵画】

 壁に飾られた現代アートの数々が部屋を明るく見せている。どの絵も目を引く出来だ。


【→引き出し】

 ベッドサイドに置かれていた引き出しを開けた。


 これは……旅行ガイド


 パラパラとページをめくってみた。


 地元の観光地に関する詳細な記事や写真が掲載されている。

 証拠発見:旅行ガイド


【→調査完了】

 部屋をひととおり調べた後、私は再び引き出しから旅行ガイドを取り出した。


 手早くページをめくると、最後のページに地図が載っていた。


 これまで見つけたものから考えると、今いるのは恐らく……

【→G4 DISTRICT(G4地区)】

 G4地区だ。


 この「G4地区旅行ガイド」は、館の主が、この部屋に滞在するゲストのために用意したものだろう。


 だとすると、今いるのはきっとG4地区だ。


 とはいえ、G4地区も狭い場所ではない。


 自分が置かれている窮地をより詳しく把握するためにも、落ち着いて、さらに絞り込んでいかなければ。


 今いるのはG4地区のどの地区だろうか?

【→G4 SUBURBAN(G4地区郊外)】

 街の中にいるとは考えにくい。


 窓から見えたのは広大な山林だけで、近隣に他に建物がありそうな様子はなかった。


 こうも隔絶され、針が落ちる音すら聞こえそうなほど静かな場所といったら、G4地区の郊外しかない。

主人公
 G4地区の郊外? なんでこんな場所に?

主人公
 ……。


 頭がますます混乱してきた。


 !?


 突如、私の思考を妨げるように部屋の外から足音が響いてきた。

主人公
 ……誰かいる? 外に出て確認したほうがいいかな?

 ヒント:セーブはこまめに。

【→LEAVE THE ROOM AND INVESTIGATE(部屋を出て調べる)】
主人公
 うう……頭が……痛い……
 
主人公
 でもここに居ても時間の無駄だ。外にいる人がなにか知っているかもしれない。


 私はベッドから出て、まっすぐドアへと向かった。


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☆ロビー
主人公
 ……。


 ロビーは漆黒の帳に包まれている。


 バーのような場所が目の前にあるということだけがかろうじてわかる。

主人公
 ……バーカウンター?


 私はここで酒を飲み酔いつぶれた、ということなのだろうか。
 これは二日酔いなのかもしれない。


 でも……


 周囲の様子を見るに、今いる場所がバーだとは思えない。


 この場所は、誰かの屋敷のように思われる。


 なら、ここは誰の家なのだろうか?


 ……わからない。


 !?


 背後から、なにかが勢いよくこっちに向かってくる音が聞こえ……


 次第に圧を増す、耳が聞こえなくなりそうなほどの爆音が、私の鼓膜を揺らした。


 ドクドクと激しく打つ心臓の鼓動がその音に共鳴する。


 なにが起きてるの?


 ゆっくりと、私は振り返った……

主人公
 なっ、なにこれっ!!!???


 筆舌に尽くしがたい、おぞましい光景が目の前に広がっていた。半分引きちぎられた、崩れた顔面。そこに残る孔からは鮮血が滴り落ち、床に小さな血溜まりを作っている。


 侮蔑の光をたたえた、異様なほどに膨張した眼球は、表面にびっしりと毛細血管が走り、そこから異質の液体が滲み出している。


 唯一、ヒトらしく見える部分は……


 その無理やり作られたかのような、歪みきった笑顔だった。


 生か、死か


 とっさに身を引くと、化け物の全体像が見えた。


 身体の裂け目という裂け目から血を噴き出しており、少し引っぱれば手足の塊となって崩れ落ちていきそうだ。


 化け物は鉤爪を振り回し、こちらに向かって底知れない苦悶の叫び声を上げて近寄ってきた。


 どうすればいい!?

【→RUN BACK TO THE BEDROOM(寝室まで戻る)】
主人公
 頭痛がする状態でこんなのと戦えない! 隠れないと!


 私は急いで寝室へ戻り、勢いよくドアを閉めると、残る体力を振り絞り全速力で鍵をかけた。


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☆寝室

 私は息をひそめた。化け物はドアを粉々にせんとばかりに勢いよくぶつかってきて、私の息遣いの音をかき消している。



 ……?


 行ったか? もう大丈夫なのだろうか?


 私は落ち着きを取り戻そうとした。


 しかし……この部屋に閉じ込められてしまった。


 「どうしよう?」私は途方に暮れた。

主人公
 うっ……頭が……もう駄目。

主人公
 もう少し横になっていたほうがいい。

主人公
 気分が良くなれば、ここを脱出する方法も思いつくかもしれない。


 私は柔らかなベッドに身体を横たえ、ふわりと毛布をかぶった。


 程なく、私は眠りに落ちた。



 ……。

主人公
 ……ん?

主人公
 いま……何時……?


 ゆっくりと目を開く。



 !?
 暗闇の中、ベッドの際に座り、不気味な瞳でこちらを見つめる人の姿があった。

主人公
 だっ、誰!?


 なぜか知らないが、その男は私が慌てる様子を見て面白がった。


 「落ち着け、嬢ちゃん」と男は笑った。

???
 この館の主人から、あんたがゴタゴタを起こさないように見張ってろと言われたんだ。


 館? 私がいるのは誰かの家?

主人公
 私、どうやってここに来たんですか? それにあなたは誰?


 警戒するような視線を男に向けながら、私は毛布をたくし上げた。

???
 俺か?


 男は頭を傾げて私を見た。心なしか楽しそうだ。

ヴィクター
 俺はヴィクター・ブレイク。この館の主人の親友だ。


 ヴィクター・ブレイク?


 気分が落ち着き、私は男をさらによく観察した。


 趣味の良いボウタイ、整った鮮やかな赤い髪。


 しかしもっとも目を引く部分は、その風変わりな瞳と腕だ。


 あれは……機械式の義眼と義手だろうか?

ヴィクター
 で、あんたがここに来た経緯だが。

ヴィクター
 そいつは俺自身もかなり気になってるとこでね。


 つまり……彼もそれについては知らないということか?


 他になにを訊こうか?


【→WHO’S THE OWNER OF THIS MANSION?(この館の主人は?)】
主人公
 この館の持ち主はあなたではないんですよね……なら、誰が?

ヴィクター
 ここの主人か? ヴィンセント・エッジワースだ。

ヴィクター
 どう言ったらいいのかね……なかなか魅力的なやつだよ。だが同時にとんでもなく危険なやつでもある。


 ヴィンセント・エッジワース?


 うーん……なぜだろう、その名前には聞き覚えがある。


【→HAVE YOU BEEN WATCHING ME SLEEP THIS WHOLE TIME?(寝ているところをずっと見ていたのか?)】
主人公
 私が寝てるところ、ずっと見てたんですか?

ヴィクター
 見てたとも、嬢ちゃん。

ヴィクター
 正直、なんとも平和そうにスヤスヤ寝てるもんで羨ましくなっちまった。


 ……この男のことはなんとも思っていないが、それでも頬がカッと熱くなるのを感じた。


【→WHAT HAPPENED TO YOUR EYES AND YOUR ARMS?(その目と腕はなにが?)】
主人公
 その目と腕は……なにがあったんですか?

ヴィクター
 ……。


 ヴィクターは一瞬静かになった。

ヴィクター
 まあなんだ、人生には自分の思い通りにならないこともあるってことさ。


 彼は肩をすくめて笑った。私の質問は忘れ去られたようだった。


【→WHAT WAS THAT....THING?(「アレ」は……なに?)】
主人公
 血をダラダラ垂らした恐ろしい化け物を見ませんでしたか?


 「化け物?」彼は困惑したような顔をした。

ヴィクター
 ああわかった、あのサイボーグどものことだろう?


 サイボーグ? しかも何体もいるの?

ヴィクター
 そう心配することはない。あれはヴィンセントのペットだ。


 ペット!?


 もう少しでエサにされるところだったんだけど……


【→END THE CONVERSATION(話を終える)】

 私がどうやってここに来たのかヴィクターも知らないなら、これ以上質問を続ける必要はない。

主人公
 それじゃ、私はそろそろ行きます。


 高級そうな毛布を脇にのけ、私はベッドを出た。

主人公
 素敵な部屋を貸していただいてありがとうございますと、エッジワースさんに伝えてください。


 私はドアへと向かった。

ヴィクター
 どこに行くのか聞いてもいいかい、嬢ちゃん?


 ヴィクターが好奇心を含んだ目で私を見た。

主人公
 どこに? 帰るんですよ……

主人公
 その……


 自分の手が、万力のようにドアノブを握りしめているのを感じる。返答がなかなか出てこない。


 私が行くのは……どこ?


 私の家は……どこ?


 私は気づいた。忘れているのは昨晩の出来事だけではない。


 私は……


 すべての記憶を失っている。


***************************


☆ヴィンセント邸

 はあ……。


 名前もない、お金もない、身分証もない……


 浮浪者とすらいえない状況だ。

ヴィクター
 おいおい、そんな困った顔しなさんな。

ヴィクター
 いいか、記憶を失くすってのは幸運なことだとも言えるんだ。

ヴィクター
 自分の記憶に囚われている人間は山ほどいる。一生懸命その記憶を手放そうとしている一方で、同時にその記憶にしがみついちまう。

ヴィクター
 そんななかであんたは、やり直しのチャンスをもらったんだ。

ヴィクター
 素晴らしいことじゃないか? 正直、あんたがちょっとばかり妬ましいぜ。


 ……彼の言わんとすることは分かるが、真面目に考えて、ホームレスになること以上に最悪な状況などあるだろうか?


 私はまたため息をついた。

???
 ヴィクター、何回言わせるつもりだ? 私の家で煙草を吸うな!

ヴィクター
 おーやおやおや、魔王様の噂をすれば。我が友ヴィンセントじゃないか!


 ヴィンセント? この人がこの館の主人?

ヴィンセント
 ご客人、この変態のせいでなにかお困りでしたら、すぐに警察を呼んでしょっ引かせますが。


 「あ……大丈夫、だと思います。ありがとうございます」私はおずおずと答えた。

主人公
 (……この二人、本当に仲良いの?)

主人公
 エッジワースさん、あなたがこの館のオーナー?


 「ええ、そうです」とヴィンセントは微笑んだ。

ヴィンセント
 きちんと自己紹介もせず失礼しました。私はヴィンセント・エッジワース、この館の主です。

ヴィンセント
 お名前をうかがってもよろしいですか、ご客人? どのようなご用件でこちらへ?


 ……どのような用件で? つまり、まず最初に私がここに来たということか?


 「あの……私……」なんと答えたものか。

ヴィクター
 残念だがな、ヴィンセント。我らがご客人は記憶をすっかり失くしちまってるようなんだ。


 ヴィクターが助け舟を出した。

ヴィンセント
 ほう……そうなのですか? これは興味深い。

ヴィンセント
 でしたら、新しい名前を決めてはいかがですか、ご客人?


 良い考えだ。仮名があったほうが、名無しよりはマシだろう。


 さて、どんな名前にしようか? →【ヴァレリア(VALERIA)】
 (※訳注:名前未入力で決定するとデフォルトネーム「VALERIA」に決まる。)

ヴァレリア
 ヴァレリア。ヴァレリアでお願いします。

ヴィンセント
 ヴァレリアですね。分かりました。お会いできて光栄です、ヴァレリア。

ヴィンセント
 いささかお困りのようですね。頭の中に山ほど疑問が浮かんでいらっしゃるのでしょう。

ヴィンセント
 私のほうでお力になれることは?


 私の記憶の扉を開く大事な情報を、ヴィンセントが握っているかもしれない。
 なにを訊こうか?


【→HOW DID I GET HERE?(私はどうやってここへ?)】
ヴァレリア
 エッジワースさん、教えてください、私はどうやってここへ?

ヴィンセント
 どうやって、ですか。申し訳ありませんが、私にも分からないのです。

ヴィンセント
 私の執事が昨晩、ドアをノックする奇妙な音を聞きつけまして。

ヴィンセント
 彼がドアを開けると、貴方が階段の上でうつ伏せに倒れていました。気を失った状態でね。

ヴィンセント
 我々は貴方のことも、貴方がここにいる理由も分かりませんでした。それで、しばらく貴方をゲストルームにかくまうことにしたのです。


 ……。


 ヴィンセントの話を聞いて、私は考え込んだ。


 いったいなぜ私はこの館に来たのだろうか?


【→WHAT WAS THAT MONSTER?(あの化け物は?)】
ヴァレリア
 さっき、見たこともない化け物に出くわしたんです。

ヴァレリア
 なんというか……半分人間、半分機械、みたいな。

ヴァレリア
 あれはいったいなんだったんですか?

ヴィンセント
 おやヴァレリア。私の友にお会いになったのですね。

ヴィンセント
 約束していただけますか。エサの時間でない時には、なにも食べさせてはいけませんよ。


 ……私はエサにピッタリだったということか?


【→DID I BRING ANYTHING WITH ME?(なにか持ち物はあったか?)】
ヴァレリア
 私がここに来たとき、なにか持ってましたか?

ヴィンセント
 そうですね……そういえば、貴方のポケットにこんなものが。


 ヴィンセントは名刺を渡した。


 名刺はほとんど読めなくなっており、大きなM字のロゴだけが残っている。


 「マイヤーズ社?」その名前をどこで聞いたのだったか。


 そこで働く誰かの名刺を、どうして私が持っているのだろうか?


 「マイヤーズ社って?」私は顔を上げて尋ねた。


 「世界的に有名な機械技術系の企業だよ、G4地区に拠点がある」ヴィクターが答えた。

ヴィクター
 可動性の高い機械式義肢の開発に初めて成功した会社でもある。

ヴィクター
 だが残念なことに、5年前に起きたある凄惨な事件によってマイヤーズ社は倒産に追い込まれた。

ヴァレリア
 凄惨な事件?

ヴィンセント
 G4サイボーグ事件です。


 ヴィンセントはその言葉を口にすることさえ嫌な様子だった。

ヴァレリア
 G4サイボーグ事件? なにがあったんですか?


 ヴィンセントもヴィクターもしばし押し黙った。その事件のことを私が知るべきか考え込んでいるかのようだった。

ヴィクター
 2080年1月、わずか1週間のうちに大勢の市民が奇妙な失踪を遂げた。


 ようやくヴィクターが話し始めた。

ヴィクター
 市民たちはなんの痕跡も残さずに消えていた。まるで空へ吸い込まれちまったみたいにな。

ヴィクター
 遺書も、遺体も、血痕もなし。足跡さえひとつもない。

ヴィクター
 しかし、失踪した市民たちにはひとつだけ共通点があった。全員が、失踪直前にG4地区で目撃されていたんだ。

ヴィクター
 何百という市民を1週間のうちに消し去るほどの力を持った人物とは誰か?

ヴィクター
 当然、警察はマイヤーズ社に容疑をかけた。G4地区に拠点を持つ国際的な独占企業に。

ヴィクター
 だがマイヤーズ社は、事件への関与を否定した。

ヴィクター
 1年に渡る捜査の末、警察は偶然にも、マイヤーズ社の地下に隠し部屋を発見した。

ヴィクター
 部屋の中にいたのは……サイボーグの集団。

ヴァレリア
 (サイボーグ? それってさっき見たあの……?)

ヴィクター
 そのサイボーグは失踪した市民だったんだ、と思うだろ。

ヴィクター
 だが真実はもっと残酷でね。

ヴィクター
 失踪した市民は、そのサイボーグどものエサにされていたんだ。

ヴィクター
 サイボーグどもがどこから来たのかということについては……誰一人確かなことを知らなかった。

ヴィクター
 この事実が明るみに出てもなお、マイヤーズ社はそんな非人道的な実験を許可したことについて頑なに否認を続けた。

ヴィクター
 ある弁護士の助力により、一人の無辜の社員が有罪判決を受けた。

ヴィクター
 彼は執行猶予無しの無期懲役を言い渡されたが、マイヤーズ社のほうはなんのお咎めも受けなかった。

ヴィクター
 しかし……この話にはまだ続きがある。

ヴィクター
 その2ヶ月後、弁護士が自動車事故で瀕死の重傷を負った。

ヴィクター
 同じ年には、マイヤーズ社の幹部陣がいずれも残忍な手口で殺害された。

ヴィクター
 一連の残虐な事件を引き起こした犯人はとうとう見つからなかった。

ヴィクター
 今もなお、G4地区の市民は不可解な失踪を遂げている。

ヴィクター
 噂では、かの実験の犠牲者たちの亡霊が町をさまよっていて、彼らに不運にも出くわしてしまった市民の命を奪っているそうだ……


 ……。


 ヴィクターの話に、背筋がぞくりと震えた。


 G4地区にそんな恐ろしい都市伝説があったとは。

ヴァレリア
 ヴィクター、その話をいったいどこで?


 「簡単なことさ」とヴィクターが笑った。

ヴィクター
 俺もヴィンセントも、マイヤーズ社の元社員なんだ。


 !?


 「ヴィクター、その話をそこまで覚えているとは実に恐れ入る」ヴィンセントが皮肉めかして言った。

ヴィクター
 ゲフンゲフン……


 ヴィクターは咳でごまかそうとした。


 彼は壁掛け時計を見て、少し慌てた。

ヴィクター
 さてさて、お話の時間はおしまい。俺はおさらばしよう。

ヴィクター
 ヴィンセント、明日の晩にパブで飲もう、いいな? あんたと会えてよかったぜ、ヴァレリアさん。


 ヴィクターは館を出ていった。



 その後、ヴィンセントは私をゲストルームまで送ってくれた。


 私は彼にお礼を言って部屋に戻り、一眠りした。


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☆寝室

 深夜。私は静かにベッドに横になり頭を巡らせていた。


 考え続けていたのだ、ヴィクターが語った話のことを……


 失踪したG4地区の市民、地下にいたサイボーグの群れ……


 そして、謎のマイヤーズ社。


 私はポケットから名刺を取り出し、月明かりに照らしてじっくりと眺めた。


 私はなぜこれだけを持ってヴィンセントの館に来たのだろうか?


 私はマイヤーズ社となんの関係があるのだろうか?


 ……。


 私の行くべき場所はひとつ。


 マイヤーズ社だ。